死体*Reveille


「男子10番、千田亮太」
「ういーっす!」
ハァーイ☆今日も元気なチダっちは、こんなじめじめしててキノコが生えそうな雰囲気を、1人で気合入れしていまーっす!――なーんて、普段だったら言うかも知れないけど、いまの俺にしたらちょっと無理があった。


俺、千田亮太(男子10番)の中ではいま、プログラムに放り込まれたと言うのよりも、有馬和宏(男子2番)が殺されたほうがもっともっと、英語で言うとthe mostくらいショックを受けていた。デット・オア・アライブ、どっかにそんな名前の漫画があったけど、ほんとに人が死ぬということはこういうことなんだと教えつけられたような気がした。
いまや世の中、刑事ドラマでさえ誰かが死なないと話は始まらないし、少女漫画と熱血スポーツマンが以外は大概人が死ぬこの時代の情報源たちは、素敵に俺に死の世界観を教えてくれたようで……皮肉だね。
「俺たちは、殺し合いをしまーす、俺たちは殺し合いをしまーすっ!」
中央の教壇に立ちはだかる夏葉翔悟(担当教官)青沼聖(副担当教官)のところにいく前に、俺は歩きながらそう唱えた。にっこり、夏葉と目が合う。あいつは素っ頓狂な顔をして俺のことを見るけど、すぐに笑った。
「おっし、合格だ」
久し振りに見た嫌味を含む笑顔のまま、タバコの煙を吐き出す。
「あ、じゃぁさナッパセンセ、有馬の目、閉じてやってもいい?」めがねの曇りをぬぐいながら聞いた。
「死後硬直始まるから早くしてやれ」意図も簡単にOKしてくれたのはさすがの夏葉大先生。なんだろうな、俺が素直に殺し合いしまーすなんて言ったから許してくれたのかなっ?あっははん、ラッキーウッキー。


さすがに和宏の前まで行くと血のにおいが強烈になってきた。もう半分くらいは固まって黒く染まりつつあるけど、まだまだ「死んだ」事をあからさまに表現している。
「有馬。もうしばらくお前にゃ会えそーにないわ。え? どれくらいかって? あと80年は先だぜ」
目を閉じさせながらつぶやいた。和宏は腹部、頭部、確実に急所を狙われている。だけど俺は現実のグロテスクに触れながらも、涙を必死にこらえた。もうすでに、その場に怒りはない。俺の怒りはすべてさっきまで自分が座っていたあの席に置いてきたんだ。許してくれ、和宏。俺は、俺自身の快楽のために剣を取る。きっとお前は笑いながら怒って、お前にゃ思いやりがないな、なんていうかもしれないよ。だけど俺は、俺は。



「んじゃまたなっ、ナッパセンセ、青沼センセ♪優勝したらまた会いましょッ!」
俺自身、もうちょっと感情を込めて上手く言おうと思ったけど、うわべっつらだけの平坦な台詞、棒読みのようになってしまった。やっぱり、まだ何か捨てきれない後悔がある。もっと捨てなきゃ、俺は、殺し屋になるんだ。



バッグを受け取って廊下を走った。あー、早く殺し合いしたいな、なんて自分を押さえながらも、バッグをあさった。すると――。
チャキーン!出てきた、やりました、俺!神様ありがとう!
廊下のほの暗い明かりに写った「BERETTA」の文字を見て俺はその場で叫びそうになった。ベレッタキタ!キター!イタリアベレッタキター!っていうか落ち着け俺!
ドクン、ドクンと高鳴る心臓の音を抑えながら、多少興奮気味に俺は歩いていた。そうだ、さっさと行かないとさ、次の人がでてきちまうじゃんかよ!
えーっと、俺の前があのタカビーオジョウの服部綾香(女子10番)だから、次は日高かおる(女子11番)か?
俺はバッグの中をもう一度あさり、補充用の弾9ミリ用の弾を取り出した。隣のクラスにガンマニア兼アニオタ(世の中のアニオタをバカにすんなよ?)がいて、そいつに見せてもらった銃の弾のつけ方(実際はモデルガンだけどね?)。あぁ、よかった。俺の友達そんなんで!
相当な力が必要だったが、何とか弾の装着までは終わった。




さぁて、次の段階さ。俺の次に出てくるのはご存知のとおり日高かおるですねぇー。日高はちょっとデブってて、それなりに運動できないんだよねん。ま、昔あの服部綾香の手下だったけど、それが嫌で抜け出した勇気だけはほめてあげるけど。んー、まぁそんくらい?ちょっと手先が器用で、飯塚理絵子(女子1番)とかと同じ家庭科部だったっけな。
――っておいおい、1年間同じクラスにいて仮定形かよ。疑問文だよ。ていうか誰に突っ込んでんだよ。


階段を下りて、ほんの少し明るい場所に出る。どうやら出口の向こうに電灯でもあるようだ。ふと、出口の手前の椅子に座っている兵士が気になったが、彼を殺してもどうしようもないし、ただの弾の無駄なので、とりあえず無視しとくに限る!
出口を出ると、電灯(これが青沼センセいわく太陽電池か)の近くに大きな時計があった。3時半ちょい前。うーん、よい子はオネンネの時間かもしれないけど、昼と夜が逆転している俺には常に営業中の時間帯だね、心配ナッシ!
拳銃を握り締めながら、俺は興奮する心を必死に抑えた。



ふと、血の香りがする。――え、いや。多分ね。
目の前に多い茂る森を掻き分け、血のにおいと思われるものを探った。闇にもぐりこんだ深い森だった。後ろからはあの電灯が光って見えるけど、それだけの明かりじゃまだ足りない。試行錯誤しながらも森を進んで歩いた。
もしも……もしも血の原因が死体だとしたら、俺はその場に倒れてしまうかもしれないなぁ。興奮のあまり心臓発作でハイサヨウナラ、嗚呼、なんて悲惨でつまらない終わり方なんだ。ま、天下のオタクキング千田亮太に限ってそんなことないけどね!
しばらく森の中を翻弄した。いやぁ、まったくよく出来た土地だ。埋立地というとコンクリート詰めだらけっぽい無機質な感じがするけど、結構土とかやわらかいじゃん!何気に雑草とかもちょこまか生えてるし、よく見ればここ、ちょっとした坂だよ。すごいなぁー政府は。リサイクルのために土台をしっかり使ってるんだな。
だけどやっぱりここはコンクリートの要塞。俺たちはここで動かされるチェスの駒。あ、ちなみに俺、キングだから。



ピシャッ


何かがはねた。足元を見ると灰色のズボンに所々黒いものが付着している。ん?黒?いや……赤黒いもの。
「……し……たら?」
このデブ具合、それに特徴ある髪の毛のくるるん、とした感じ。間違いない、設楽聖二(男子8番)だ。
「……おーい」
眼下に見えるものは、ぱっくりと切れた制服と肉の隙間から骨らしき白いものがコンニチワしている。あぁ、何の挨拶だコンチクショウ、骨に挨拶されても俺はカルシウムは十分間に合ってるから他を当たってくれって言って追い払うぞ。
「え……血糊?」
って、何言ってんダヨ俺。体全体を取り囲むくらいの量の血糊を用意できるかってんだ。第一内臓までもがコンニチワ(いや、コンバンワか?)しているって言うのにそれはないだろう。
まだ少しだけ暖かい血の水溜りに、ゆっくりと手を浸した。

「すげぇ」



……ただ一言申しますとですね、俺は感動しました。
紙の上でトーンとペン、ベタで書かれた血や死体なんかに、俺は結局何の意味も感じていないし、リアル感もなかったのよね。ブラウン管の向こうの鮮やか過ぎる赤、あからさまに切ってねぇだろ、って言う戦いのシーン、無理がありすぎるシチュエーションに飽き飽きしてたのよね。
俺が求めていたのは、本当の意味でのリアル、戦場。
素敵、千田亮太生まれてこのかた15年生きてて、こんなに感動したことありません。
アーメン、設楽聖二。誰にやられたかは大体想像付くけど、そこでおとなしく寝てた方が無事成仏できるってものよ。はかなき迷える子羊よ、狼に食べられてしまったのですね?それでは私が今宵猟師になり、狼の喉笛を一発打ち抜きましょう。いえーい。




ガサガサガサッ……
あまりにも物思いにふけりすぎた。俺の思考の許容範囲外で急に草の揺れる音がし、すぐに「いやーっ!!」という女の叫び声がした。
「あ……あ……!」
驚いて振り向くとそこには案の定、日高かおるが木の影にいた。うーん、ちょうどいいよオネエチャン、俺の素敵ベレッタの練習用になるために来てくれたんだろう?ありがとう。御礼にちゃんと苦しまずに一発で片付けてあ・げ・る☆……って俺いますっげぇキモチワルイ!嗚呼、1人ボケ突っ込み万歳!もう泣いてやる!
「いやああ!! 来ないでぇええ!!」
いや、来ないでってあんた、そっちから来たんでしょ!俺には何の責任もない!責任転嫁は嫌われるよ?
いろいろ心の中で突っ込んでいる間に日高はその豚足をどたどたと懸命に振り回して走り出した。分校の後ろ側(つまり南の方角だ)、こちらからも見える位置にある住宅街には分校の前の電灯と同じ太陽電池の電灯があるのか、ひとつだけぼんやりと明るかった。
「オイコラちょい待ち!」
俺は、知らない間に笑っていた。いつの間に?わからないけど、始まりなんて不定義。もうずっと前に俺の快楽は始まっていたのかもしれないし、今始まったのかもしれない。片手で握っていた拳銃を両手で握り、ハンマーを起こしたのを確認すると、引き金に指を当てた。
「ちょっと、ね、え。死んで?」



カチッ



……カチッ?……って……あーーーれーーー?え、何事何事?何?天地異変?何で引き金引けへんのやコラ!警察に通報するぞ!誰か弁護士呼んでこい!訴えてやる!
「えーって、オイ日高、まってよちょっと!」
こーいうのをウェイトフォーミーっていうんですか?日高は遅いながらもその足を懸命に使って走り始め、見えなくなってしまった。そうだよな、死ぬかもしれないんだから、そりゃぁいくら運動嫌いでも走るわな。俺は急に引き金が引けなくなった拳銃を見直すと、しっかりと、安全装置がかかっていることを理解した。



「セーフティーロック」
やられた。俺ってばなんてバカ!きっとこれからずっとこんなケアレスミスして快楽を逃すんだぜ!そうだそうだ!だからいつも定期テストで35点以上取ったことないんだ!所詮俺にとっちゃ20−8は16だよーっだ。ケッ!
「あー、ばかっぽ」
走って追いつくのはあきらめた。運動するのはあまり得意ではないし、何よりも短距離走は自慢じゃないが8秒後半だ。面倒なことは嫌いだから、あっさりとあきらめるに限る。
さぁて、これから何をしようかな。出口で待ち構えて順番に殺していくのは、なかなか人の人道としてやりきれないものがあるから(それにそんなんじゃつまんないしねっ!)、俺はしばらくあたりをうろつくことに決めた。
そして、今度はしっかりとセーフティロックをはずし、すぐに撃てるように用意してから、右手に構えた。




残り30人


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