恣意*Calore


2年生の2学期、大阪からこの高原市立第五中学校、通称五中に転入してきたアタシ、柳葉月は、転入初日の放課後にたった一人してアタシに話し掛けてきた土屋若菜が気になって仕方なかった。普通の女なら集団になって動くような気がするけど、若菜ちゃんはいつもひとりでいつも手にはめるタイプの人形をいじって、そして男子とイチャイチャ(もはや死語?)しながら日々を過ごしてきた。
あんなかわええ子なのに、何で一人で動いてんのかなぁなんて考えていたら余計に彼女に対する好奇心がうずいて、しまいにはアタシから積極的に話し掛けていた。


でもある日、何で若菜ちゃんが一人で動いていたのかわかった日が合った。それはアタシが転入してきて3ヵ月ほどたったときや。大阪でやっていたバスケをこっちで続けようとして入ったバスケ部でおきる。そのバスケ部は結果を残せるほど強くはなかったんやけど、部長を筆頭とするメンバー全員がこれまたおもしろくて、練習以上に親しめた。
で、話はその部長さんの一言から始まる。
「若菜の奴、今日来てんの?」
バスケ用ジャージに着替えてボールをハンドリングしながら、まだ着替えているアタシたちに向かって聞いてきた。
「来てない来てない」
「またサボりじゃん?」
「ま、来てほしくもないってのがホントのトコだけどね」
部長さんの問いかけに、友達は皆口々に答える。
あ、そうそう、言い忘れとったけど、偶然かどうかは分からないんやけど若菜ちゃんも同じバスケ部所属やった。でも今の言葉達はあからさまに若菜ちゃんのことを疎外しておる。どうしてやろ、同じ部活仲間やないか。

「え、なんで? 若菜ちゃん来たらアカンの?」
アタシはそのまま質問した。部員達はみんなああ、そう言えばと言う顔つきをしながらアタシを見つつ「そっか、葉月は若菜と仲いいもんね」と答えになってない答えが返ってきた。そこでアタシがハテナマークを頭の上で並べていると、部長さんがずいとでてきてこういった。
「ウチら、あんま若菜のこと好きじゃないんだよね」そしてからこう続く。
「若菜、小学校の頃は天然で可愛いってみんなに愛されてたんだけど、中学に入ったらちやほやされていい気になってさ。しまいには他の小学校からあがってきたかっこいい男をとっかえひっかえして、ついたあだ名が5大性格ブスの一員、ぶりっこ男好きってわけ」
はぁとため息を吐きながら部長さんは立ち上がる。でもそれ以降の行動はアタシの目に映らなかった。ただ、アタシのなかでは若菜ちゃんのことばかりが頭のなかにおる。学校でもそこそこ人気やった子が、一転して嫌われモノになる。
ああ、これじゃまるで昔の自分を見ているようでしかたがない。


がたんっ
不意に入り口の扉が開いた。そこにいた全員の視線が一気に入ってきた土屋若菜へと注がれていく。
「若菜ちゃ……ん」
どうして、より、しまった、が割合的に多い気がする。若菜ちゃんは伏し目がちに地面を見てすまなそうにつぶやいた。
「ねぇ、若菜は女の子だよ。なのに男の子より、女の子を好きにならなきゃいけないの?」
それっきりその場にいた人の言葉が鼓膜を震わすことはなかった。誰一人口を開かず重い沈黙が場を制す。悪いことをしてしまった。内心そう思っていてもアタシにはどう弁解してええのか分からんかった。でも弁解せんかったらどうなってしもうのか用意に想像できる。
「若菜は……若菜は若菜のままでいいんだもん!」
そのまま若菜ちゃんは強引に扉を閉めると、出ていくと思いきや入ってきて、ボール籠からボールをひとつ取っては、普段生活していたジャージ姿のままバッシュもはかずにシューティングをはじめた。ドンッドンッドンッドンッ……というボールがドリブルされる音がまだ無人の体育館に響き渡る。学年の人気者がが一転して嫌われモノになる。それはアタシと一緒やった、何一つ変わらん。せやけどたったひとつ違うところがある。それは逃げ出さずに向き合っていること。アタシは確かに逃げ出したわけやない。だけど、そのことから目を背けてきていた――。


「若菜ちゃん」
彼女の長くてストレートの髪が揺れている。その背中がなぜか小さく見えてきたけれど……。ごめんな、ごめんな若菜ちゃん。若菜ちゃんはずっと戦ってきたんよね?アタシみたいに、弱くなかったんよね?――アタシが今でも若菜ちゃんをちゃん付けで呼んでいるのは、若菜ちゃんが強い人だから。尊敬すべき強い人だから。
だからアタシが守らなきゃいけないの。アタシが、アタシが!!


――


夜も深くなり、唯一の明かりはときどき雲から顔をだす月の光か、もしくは支給された懐中電灯しかなく、地に残された生きている生徒達はみんな月に向かって嘆く狼のように空を見上げ、そして生きることを嘆いている。
――なーんちゃって☆じょーだんわけわかめんたいこっ!空が暗いからってこの千田様まで暗くならなきゃいけない法律がどこにあるってんだバカやろー!確かに受験シーズンじゃ憲法とか覚えるために書かされたけどどこにもそんな事かいてなかったもんね!第一憲法と法律って何が違うわけ?って言うかもともと地元のバカ校行く予定だった俺にはよもやそんな必要なかったけど!

ハァーイ☆ってな訳で千田亮太(男子10番)の本来の活動である夜に入って、最も活動する時間の12時まであと残すところ1時間半くらいになったよ!ノーカフェインなのに目はギンギンだし、もうテンションはMAXに近いぜフゥー!!燃えろ真夜中の下心!
えー、そーいう訳でC−07エリアの右上、それからC−08エリアまでぐるっと一周罠を張ってみたんですよ。て言うかマジ疲れたね!だってこのひとつのエリア200×200もあるんだもん!そんな長い縄あるはずねえし!だから千田は住宅地とか農家の倉庫から長いロープをいくつか見つけておいて、それを改造していくつも罠を張っておいたのよん☆俺ってばあったまいー!バカだけど頭いー!


今は獲物が罠に掛かることを期待して待機中。でもここしばらくずっと掛かってないからもう飽きてきたとこなんだよねー。空暗いし、遊ぶもんないから暇だし。とにかく人生エキサイティングしたい俺には待機なんて性に合わないの!プンプン!

ガランッゴロンッ、ガランッゴロンッガランッガラン……
突然神社で参拝するときによく聞こえてくる大きな鈴のような音が聞こえた。……ヤッベェ、これはキタんじゃね?いくつか罠を張ったけれど、その内今俺がいる場所から一番近いところに張ってある罠に仕掛けた鈴の音だ!ここから南の方角へ約100メートルないくらい。えっと、俺の50メートルタイムは8秒後半(コンピューター部だから遅いのは気にしないでね!)だから、大体20秒でつくとして――理屈で考えるより先に身体が勝手に行動を開始していた。
懐中電灯でコンパスを照らし、それから前の方に障害物がないかどうかをみる。走るときに生じる音にはあえて気を配らなかった。なにせここで誰かが襲ってきたらそれこそスリル満点じゃん?撃たれて一発で即死ってのもまた困るけどね!

暗やみのなか、獲物を見つけたはずなのにまだ安心しきれなくって、まわりを警戒しざるを得ないこの心地いい緊張感。これが求めていたスリルなんだと思うと、わきわくしすぎてまたテンションが上がっちゃうじゃないか!!罠が張ってあることが近いという印し(ネクタイをカッターで切って木に縛り付けたんだ♪)が懐中電灯でライトアップされた。
「う……あ……」
うなるような声が聞こえた。確かにちょっとした遊び心で地面近くに張られた縄に足が引っ掛かったら虫の入ってるバケツが転落してくる仕掛けになってたんだけど、それがきいたって事は獲物は女だなぁ?!雰囲気的には俺が分校からでてきて一番はじめに銃を向けた日高かおる(女子11番)のように、弱々しくてのろまそうな感じがする。ラッキーうっきーィ?それは好都合ってもんよ!
俺は手にもっていた愛しのベレッタの引き金をいつでも引けるようにしておいた。そうそう、はじめみたいにセーフティロックの外し忘れが起こらないようにね!

「ヘイヘイそこの人ー? ルックアットミー!」
バアンッバアンッ!!
言うのが早いのかそれとも銃声のほうが早いのか、それは事を起こした張本人である俺でもわからない。ただこの暗やみにはっきり映し出されるような白いブレザーを着ているものだから、本能的にそれを感知して引き金を引いたんだろう。
「キャアアアッ」
まるでカラスが鳴いたような叫び声が聞こえてきた。おーおーおーおー、ずいぶんイキのいい獲物だこと。声の高さからすると女かなーっ?懐中電灯を左手にして、罠を張った場所と声のしたほうから判断した獲物の居場所まで全力で走った。今回ラッキーだったことは五中の制服の色が白だということと、東京湾の夜は比較的明るいということ。この二つが同時に起こってくれたことに俺は感謝したいね。
バアンッ!
手に持っていたベレッタの銃口が火を吹いた。そのため一瞬明るくなって、そこにいる誰かの姿があらわになった。
「こんばんわんこそば〜♪ もしかしてもしかしなくても、そこにいるのは柳じゃない?」
足がすくんだのか、柳葉月(女子15番)は目をめいいっぱい広げてこちらを凝視した。長い髪の毛とポニーテールにして、それをピンで止めてあげていたけれど、今はもうそのかけらもない。ほつれた髪の毛が彼女を幽霊のように仕立て上げていた。
「ころさ……れ……」
俺の向けた銃口のほうをじっと見ながら柳はそうつぶやいた。俺の口元は自然と笑みの形になる。


「あったりー! よく分かったなー、俺がお前殺そうと――」
「いやああ!! 若菜ちゃんだけは……若菜ちゃんだけは……!!」
俺が喋ってる途中だって言うのに、柳は頭を抱えて取り乱した。……こいつが何を考えてるかは分からない。いつもひょうきんで関西人らしく面白みがあったけれど、やっぱり変わっちゃうんだよな、プログラムって奴のせいで。ま、別にこの千田様は変わるわけないけど?
「あー、土屋ねぇー。アイツけっこーウザいよな。今ならぶっ殺せる」
ていうか元々土屋若菜(女子7番)は学年中から嫌われてる五大性格ブスの1人だから、あいつのこと好きな人なんていないんじゃないかと思う。……でも柳もよくあんな女と一緒にいる気になったよなぁ。俺にはその気がわからんね!
「よくさぁー、ドラマなんかで、必要なくなったら簡単に殺しちゃうじゃん? あれと一緒だよ。俺にとっちゃ必要ないしな。そいでもってリアルな流血見れる。こりゃぁもう一石二鳥だべ!」
「……いや、いや……やめて……若菜ちゃんは……若菜ちゃんは……!!」

柳が這いつくばったまま俺のほうに近づいてきた。どうやら俺が撃った銃弾がどこかに当たったみたいで、白い制服が赤くなっているのがうかがえる。普通は白いブレザーに水色のシャツが指定だけれど、柳が来ているのはピンク。いいじゃないか、赤とピンクのコラボレーション。死ぬときまで暖色だぜ?
「へーへー、せいぜいあの世でレズってれば?」
バァンッ!!バァンッ!!
まばゆい閃光と共に、ベレッタがまた火を噴いた。もう引き金が引けないのあホールドオープン、弾がなくなった証拠だ。チッ……めんどくせーんだよな、弾入れ替えるの。だいいちこの銃声聞いて、もしかしたら誰か襲撃に来ちまうかも知れねーじゃん。さっさと……とんずらぶっこくか。
ベレッタから発射されたに初の銃弾は、二つとも柳の身体に当たって、既に崩壊していた。死んでいるのだろうけれど、身体が痙攣したままときどきぴくっ……と動く姿がグロテスク。そうか……死んでもまだ筋肉に血通ってるのかな?法医学の範囲とかよく分からないから、適当なこと言ってごまかすしか出来ないけどね☆


「さーて、柳さんのお荷物チェーック!!」
柳の死体(いや、もう既に壊れたものって感じ?)を蹴っ飛ばして、近くに落ちていたバッグをさっと拾い上げた。とんずらこくのだから、早いところチェックしとかなきゃねー。
懐中電灯はいらない。水は……って間接キスかよ!柳が嫌なわけじゃないけどなんか嫌だ!パン……これも同様。ていうかもうほとんどねーじゃん!地図、コンパス、鉛筆。いらんわボケ。
――で?武器がないってワケー?
って冗談じゃねえ!!こいつ何やってんだ?支給武器どうしたよ支給武器は!!まさか捨てたとかそーいう類じゃねーだろうな?!
でも、もう死人に口なし。何を問いても柳は返事すらしない。ま、別にいいかぁー。ベレッタの弾はまだまだあるしね……。そうそう、俺はこのベレッタで切り抜くのよ!
あー、もう、なんていうかあれだよな。時代が求めていたヒーローは俺みたいな奴なんだろうね。武器が少なくても輝かしい栄光はあるしな?事実、こうしてまだ生きている。

え?俺はまだまだ生きるけど、それが何か?



女子15番 柳葉月 死亡
残り12人


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